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仙台高等裁判所 昭和24年(を)442号 判決 1950年6月15日

被告人

小川五郞

外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を山形地方裁判所に差し戻す。

理由

(イ)  職権を以て調査するに、原判決は、「第一、被告人小川五郞は山形県北村山郡東根町大字東根自宅で医業をなし麻薬取扱者として免許を受けて居る者なるところ法定の除外事由がないのに(一)昭和二十二年六月十日から昭和二十三年十二月十九日迄別紙第一犯罪一覽表(省略)記載の通り前記自宅に於て前田吉治に対し同人が麻薬の中毒者であることを認識しながらその中毒症状を緩和する為め麻薬である右表記載の注射液等を前後数十回に亘り施用し又は施用のため交付し(二)昭和二十三年三月二十九日から同年十一月八日迄別紙第二犯罪一覽表(省略)の通り前記自宅において麻薬である同表記載の注射液等を前後数回に亘り自己の身体に注射して施用したものである」という事実を認定している。しかるに原判決挙示の鑑定人大沼貞藏の前田吉治に対する鑑定書によれば、右(一)の前田吉治は昭和二十三年九月から同年十二月頃までの間に軽度の麻薬中毒症状にあつたものであることはこれを認め得るけれども、遡つて原認定の昭和二十二年六月十日以降においても同人が麻薬中毒者であつたことは原審挙示の証拠を仔細に検討するも到底これを認めることができない。しかりとすれば原判決にはこの点において事実と証拠との間に理由にくいちがいがあり破棄の事由があるものといわねばならない。

(ロ)  次にまた原判決は、「第二、被告人前田吉治は麻薬取扱者でないのに昭和二十三年九月二日から同年十二月十九日迄別紙第一犯罪一覽表(省略)の中央部から末尾まで記載の通り数十回に亘り自己の麻薬中毒症状を緩和する為め前記被告人小川五郞方に於て同人から麻薬である同表記載の注射液等を讓受けたものである。」という事実を認定し、法令の適用として「判示第二の各所為につき麻薬取締法第三条第一項第五十七条第一項罰金等臨時措置法第二条刑法第六条」と羅列している。しかして右認定の麻薬取締法違反の罪は、各讓受毎に独立した一罪を構成するものであると解すべく、全所為を以て包括一罪を構成するものであるとは解せられない。原判決が右の如く「各所為につき」と明示したところを見れば、右と同旨に出でたものの如く見受けられない訳ではないけれども、原判決はすすんで併合罪に関する刑法第四十五条第四十八条第二項、或は他に一個の処断刑を生ずる根処法令を何等示すことなくして、罰金一万円なる一個の罰金刑を科しているのであるから、原判決はこの点において法令を適用しない誤があり、この適用上の誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点においても破棄を免れない。

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